第8章 演練
授業終了のチャイムが鳴り、終わりの挨拶をした。数学は午前の授業の最後。次の時間は昼休みだった。
「さーて、お昼だ。今日も食堂でいいかな。」
机に掛けていたお弁当のバックを手に持ち、天音に目を向けた。向こうも同じ事を思ったのか、目が合った。
「ちはやん、食堂?」
「で、良いよね?」
互いに確認の意味を込めて、疑問符が付く言葉を口にした。よし、そうしよう。わざわざ、彼女は近侍の”陸奥守吉行”を連れてこっちに来てくれた。
ウチも食堂に行こうと席を立とうとしたが、隣にいる刃物の動く気配が無い。
え、まだ寝てるの?
寝ているのはさっきの時間で確認済みだから、動く気配が無いんなら、それしかなかった。
…案の定、まだ気持ちよさそうに寝てやがりましたよ。でも、起こすと怖いから、起こせない。
「…ごめん。天音、先に食堂行っててくんない?」
天音に顔を向けて、この状況を見せた。天音はそれで察してくれたのか、「了解!」と言って、食堂に行った。
取り敢えずは、彼が起きるのを待ちますか。しまった椅子を引っ張り出して、腰を下ろした。
この際だから、加州について検索してみよう。まだ、被害がそんなにないのなら、彼の事について何か出てくるかも。
鞄からスマホを取り出して、ブラウザを開いた。
★★★
ここは、何なのか…。
俺は暗闇の中でポツンと立っていた。手に何かを持っている感覚がして、目を向けてみれば、俺ーー加州清光を持っていた。
「ッ……。」
それは刃が赤い液体で濡れていた。多分も何も、これは血だ。誰かの血液だ。血独特の鉄の臭いがする。
刃を滴り落ちる赤は足元で大きな水溜りを作ってる。俺の足も水溜りの中に入っていた。
何コレ…俺、何かやったの?
しかも、体中にも血が付いてる。顔にも付いている感触がして触れば、やっぱりそうだ。でも、俺自身が何処か痛い訳でも、怪我でもした訳じゃない。…返り血?
訳が分からない。状況も理解出来ていない。困惑しかない俺は辺りを見渡すだけしか出来なかった。
でも、やっぱり真っ暗。分かるのはーー
「ここって…。」
本丸だ。しかも、千隼の部屋。数時間前までアイツと一緒に居た所だ。暗くても見覚えのあるそこに、ぼんやりと何かが見えた。