第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
莉蘭が首を捻っていると、紅炎の「寝るぞ」と言う声が聞こえ、その声で我に帰った。
よく見ると紅炎は就寝用の服装をしていて、そのままもそもそとベッドに入り込んでいる。
まさかここで寝るのか、と莉蘭はその様子を呆然と見つめた。
「何をしている。寝ないのか。」
そう言う問題じゃない、とは言えなかった。
何故なら紅炎は当たり前な顔しているからだ。
そういった事に詳しく無い莉蘭は、もう何が正しいのか分からないでいた。
「……あの、一緒に?」
「言っただろう、一人にはしない、と。」
______確かに言ってたけど!
…言ってはいたが、その意味が「一緒に寝る」などと誰が思うだろうか。
例え世の中の皇女の常識だったとしても、莉蘭は自ら進んで武術をするくらい勇ましい女の子だ。
その常識は存じ上げていない。
然し何時までもじっとしている訳にもいかず、早くしろと言いたげな紅炎の圧力に耐え切れなくなり、莉蘭は渋々ベッドの中に入る。
態と少しだけ間を空けていたが、布団を被るや否や腰を引き寄せられて空いていた距離を埋められてしまった。
然もその手は退く気配が無い。
紅炎の腕が頭の下に有り、これが腕枕と言うやつか、と少し呑気なことを思わず考えてしまった。
頭の中は大混乱である。
莉蘭は最後の抵抗として自分と紅炎との間に手を入れて隙間を作った。
手は丁度紅炎の胸のあたりにあり、頭や掌から感じる逞しい体つきに思わず感心する。
然しそれも束の間。
頭上から聞こえた声にその近さを認識してしまい、無意識に体が強張った。
「まるで飼い始めの小動物だな。」
「嫌なら離してください。」
「このベッドもそう広くない。これくらいでないと寝ているうちに落ちるぞ。それに、これはこれで暖かくて良い。」
この人は他人のことを何だと思っているのだろうか。
犬猫か、それとも防寒具か。
どっちにしろ失礼だ。
「寝相は良い方なので御心配なく。」
莉蘭はそれだけ言うと目を閉じた。
元々疲れていたのも有り、直ぐに眠りに落ちる。
紅炎もそれ以上は何も言わず、眠りに就いた様だった。