第5章 その娘、妻と成りて恋を知る
麗らかな陽射しが青々とした葉に降り注ぎ、爽やかな風が枝を揺らしながら吹き抜ける。
チチチと小鳥が囀る声を聞きながら、少女、莉蘭は湯呑みを片手に自室の窓辺でお茶を飲んでいた。
今は稽古を終え、湯浴みをした後である。
「長閑だなぁ…」
迷宮を攻略してから早一週間。
あれからというもの、紅炎はいろいろと忙しい様子だった。
事後処理、と言うのだろうか。
煌帝国にも煌帝国なりの事情があるらしく、新たに莉蘭が迷宮を攻略したという事実は、如何やら伏せられている様だった。
紅炎はその為に奔走していて、最近はあまり顔を見ていない。
今日だって人伝に「用事が有るから来なくてもいい」と言われてしまい、自室に籠もっている状態だ。
「では私はこれで失礼致します。また何か有ればお呼び下さい。」
そう言って微笑んだのは此処に来てから仲良くなった凛花だ。
そろそろ衣替えの時期だという事で、服の入れ替えをしてくれていた。
自分でやると言ったら「これくらいはさせて下さい」と困った顔をされ、彼女の厚意を無駄にするのも忍び無いと任せたのである。
凛花は作業を一通り終えると、何枚か服を持って出て行った。
部屋に一人取り残された莉蘭は本格的に暇人と化す。
「暇だ…」
日課である稽古も終え、確り体も休めた。
城の書庫から借りて来ていた何冊かの本も全て読み終えてしまっている。
返しに行こうにも「来なくていい」と言われているので行こうに行けないのである。
紅炎が「来なくていい」と言う日は大半が「来るな」と同意義だ。
それは忙しいからなのか、はたまた莉蘭に見られたくない作業をしているからなのかは定かではないが、何れにしろ自分が居ては邪魔になるという事だけは理解していた。
「…散歩しよう…」
別に来るなと言われただけで、部屋で大人しくしていろと言われたわけではない。
莉蘭は下ろしていた髪を纏め、何時もの髪飾りとイヤリングを着けると、部屋を後にした。