第2章 大きな出会いと小さな幸せ
~噴水広場~
久しぶりの地面と太陽に胸が高鳴った。病院の外は人の賑やかなざわめき声が聞こ え噴水の水の音が聞こえている。ふわふわと暖かい風が心地よい。私は噴水の前の ベンチに腰掛け目をつぶり外の心地よさを感じていた。するとさっきまで緩やか だった風が急に強くなり、私の白い帽子が飛んでいってしまった。 「あっ。」
ふわりふわりと風にのって飛んでゆく。それを必死で追いかけていた。
「大丈夫ですか?」
聞いたことのない初めて聞く声だった。目の前を見ると私の帽子を持った青年が軽 く微笑んで立っていた。
「あっ、あの…ありがとうございます。」
その青年は、私に帽子を渡すと何事も無かったかのようにその場を去っていった。 耳に残る優しい声だった。 私はずっとその場に帽子を持ったまま立ち尽くしていた。
4月2日 7時18分~病室~
明るい日差しがカーテンの隙間からこぼれ落ちていた。眩しさに目を覚ますと看護 士の牧原さんが朝食と薬を持って立っていた。
「おはよう~!」
牧原さんの明るい挨拶で今日もまた私の1日はスタートした。ベットの机にはいつ もと変わらない病院食が置かれた。病院食の味が嫌いという訳ではないがパパの料 理に比べたら100倍ほど美味しくはないものである。朝食が終わるとすぐに薬の時 間。私はこの病院に入院して4年が経つが今だに薬と点滴は世界で一番嫌いなもの となっている。そんな事も知らずに牧原さんは大量の薬を私に次々と渡して来る。
「はい、じゃあ次これ飲んでね。」
その牧原さんの言葉が一言一言悪夢のように聞こえた。それでも私は薬を全て飲ん で点滴にも打ち勝った。カバンに教科書と筆記用具を入れ髪を整えて院内学級へ向 かった。