第5章 天才魔導師
side ジャーファル
ヤムライハとチサトさんが出て行った後、私も自分の仕事に取り掛かった。いつもみたく山積みになった机を見て溜息を吐きながら席へ着くと、ひたすら書類を捌いていく。
就業の鐘が鳴ってもペンを握る手は止めない。仕事が最優先事項だ。
気づけば時刻はあっという間に過ぎていて既に丑の刻になっていた。重くなっている目に目頭を緩く揉むようにしてほぐし、白羊棟を後にする。
自室に戻る前、ふと気になったのは異世界からきたという彼女。少し様子を見ていこうと、彼女に割り当てた部屋へと歩みを進めていく。
部屋の近くまできたとき、流石にもう寝ているだろうと思ったがドアの隙間から漏れている明かりに小さく溜息を吐いた。
「全く…明日もヤムライハの指導が控えているはずですが」
ボソリと小言を言って軽くノックする。が、中から返事は聞こえない。またかと思いつつも少しドアを開けてみる。
「…!」
ドアを開けたすぐ側にはその場で倒れているチサトさんの姿があり、何事かと駆け寄り彼女の様子を見る。
「…寝てるだけ…?」
それが分かると次は安堵の息をはく。
「…世話のかかる子ですね」
私は倒れるようにして眠るチサトさんの膝裏と背中に手を回すと持ち上げてベッドまで運ぶ。
何故怪しい人物にこんな事をしているのか自分でも分からない。放っておくと後からシンのお咎めの言葉があるからだ、きっとそうだと自分で言い聞かせながら眠るチサトさんを見る。
シンが警戒しない分、自分が警戒しなければいけない。もしもの時は自分がこの人を殺さないといけないのだから。
ぐっと拳を握りながら踵を返す。チサトさんが倒れたとこには抱きかかえた時に落ちたでたろう、ペンと薄いノートが。
ダメだと思いながらもノートをパラパラと見る。その内容とは自分が読めない文字がびっしりと白い用紙を埋め尽くしており、彼女の真面目さや勤勉さがうかがえる。
あるページでは魔法の型が書かれたものもあり、ヤムライハの指導に対して彼女がきちんと応えているのが見て分かる。
「…彼女に対しての考えを改めないといけませんかね、」
穏やかな気持ちになるのが自分でも分かり、彼女のノートなどを机の上に置いて彼女の部屋からそっと出る。
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