第1章 まずは疑いましょう
沈黙。ひたすらに沈黙。
私は青峰君から目をそらし、静かに待っている。私からは言葉をかけられない。
そっと首に手を当てれば、僅か、体が震えた。
思い出す嫌悪感。冷え切る感情。
躊躇なく舌を噛み切ろうとした、あの衝動。
赤司は私を見て、青峰君を見て、溜息混じりに別の人間に声を掛けた。
「大輝は最後でいい。今吉さん、お願いします」
「せやなぁ」
落ち着いた関西弁に視線を上げる。
胡散臭い笑顔を浮かべた青年が、椅子にもたれかかっていた体を起こして私を見ていた。
「俺のことも知っとるか分からんけど…今吉翔一や。よろしゅうな」
「…よろしくお願いします」
「阪本さん、22なんやろ?タメ語で構わんで」
「…じゃあそうする。ありがとう」
「後、折角やから名前で呼んでぇな。ワシ、年上好みやねん」
「あ、それは丁重にお断りします」
「つれへんわぁ」
どこまで本気か分からないやり取りを済ませ、少しだけ肩の力を抜く。
ふと青峰君に目を向ければ、彼はジッと私の事を見ていた。
「…大輝、最後はお前だ」
「…名乗らなくても知ってんだろ」
「けじめだ。名乗っておけ」
「チッ…」
怠そうに、しかしどこか瞳を曇らせながら、青峰君はぼそりと呟く。
「…青峰大輝だ」
「…うん、ありがと」
これで、全員の自己紹介が終わった。
私は、口を開こうとする赤司を手で止めて、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「…阪本紫苑。22歳。大学までは仙台で過ごして、春に東京で就職しました。…多分この中で一番体力なくて迷惑かけるかもしれないけど、頑張るので。よろしくお願いします」
ぺこり。頭を下げる。
真っ先に反応してくれたのは、矢張りと言うべきか高尾君と黒子君だった。
「よろしくお願いします!」
「体力ないのは僕も同じです。頑張りましょう」
次いで、緑間君達が。
「体力で劣るなら他の面で人事を尽くせば良いのです。よろしくお願いします」
「変に気負わなくていいだろ、よろしく」
「よろしくな、阪本!」
「火神、流石にさん位はつけろよ。年上だぞ?」
「ん、よろしくー」
「よろしゅうな」
「よろしく、お願いします」
黄瀬君、氷室君、青峰君は口を開かなかった。
そして、赤司が締める。
「よろしく、紫苑。…さぁ、始めようか」
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