第2章 新しい景色達
やばい、まずいこといっただろうか、彼は無類の鯖好き!こんな言い方されたら・・・
「悪いか」
切り身を頬張りながら、前髪から彼の目が光る。
「あ、いや」
再び訪れた沈黙。
お膳の中の圧倒的存在感を誇る鯖は、死んだ目で私を見ていた。
・・・七瀬君の血って鯖臭そう。
「本望だ」
「え゛っ」
私!おねがいだからそういうバカなヒロインみたいなミスはやめてください・・・!
氷の入ったコップがからりとなる。
私はハッとなってそのコップを手に取り少し口に含んだ。
味がしない、ただ冷たさだけが全身を安堵させる。
そんな時、救世主橘の笑顔が思い浮かんだ。
『普通に接してれば大丈夫だよ。多分ハルもハルなりにどう接しようかとかもしかしたらちょっとは考えてるだろうから、大丈夫。普通に、ね?』
別れ際、そんな言葉を彼はくれた。
"もしかしたらちょっと"・・・!!!!
って今注目すべきはそこじゃなかった・・・。
"普通に"。
そう、私は彼と仲良くなってフォーム指導その他をしてもらうと言う使命がある!!
なんとしても、もう少し位ー・・・。
しかし、そんなことをうだうだと考えている間にも、先制は仕掛けられた。
「弁当にも入れる」
「え」
・・・は!?弁当にも鯖!?
「それ・・・食事、偏らない?」
「別に鯖しか食べてないわけじゃない」
確かに、お膳の上には他にも鮮やかな和食のおかずが乗っていた。
「あーそっか・・・じゃあお肉食べなきゃ、たんぱく質の代わりはなるからいいのか」
「ああ」
なるほど。鯖を三食食べるためにそれなりに他のことも考えていると言うことか。
しかし、三食同じ食材だと味にバリエーションが無いのでは・・・。
私は率直に質問してみた。
「味飽きないの?」
「別に、アレンジなんてしようと思えばいくらでもできるからな」
「でも水泳って筋肉ある程度いるでしょ?お肉食べなくていいの?」