第1章 早朝シュートの少女
早朝のひと気のない公園にその少女はいた。
丁度、バスケットゴールにシュートを打った所で、
ボールは綺麗な弧を描き、リングの中に吸い込まれていった。
その後は、ボールがネットを潜り、地面に落ち、弾む音だけがこだました。
シュートを打った少女は汗を拭く為にタオルを取ろうと振り返る。
その瞬間に、フェンス越しで見ていた俺とバチリと目が合う。
早朝の心地良い風が吹き、少女の後ろで束ねた黒髪を揺らす。
朝日が照らした汗がキラキラと光ってとても綺麗だった。
まるでドラマや映画のワンシーンを見ているようで、
俺の心臓はドキリと跳ねた。
俺が見惚れていると、その少女は驚いたのか慌ててゴール下に置いていた
スポーツバッグを拾って走り去ってしまった。
―――
『…んで、その女の子を見つけたいと?』
湘北高校二年のバスケ部員、宮城リョータが少しダルそうに話を聞く。
『そうだ』
神妙な面持ちで宮城に話すのは、同じくバスケ部員の三年、三井寿。
『なんで俺なんすか…』
『こんな事話せるのお前くらいしかいねーんだよ!!
桜木に話したらからかわれるだろうし、流川は聞く訳ねーし、
赤木にはそんな事にうつつを抜かすなと一蹴されるのがオチだろうよ』
『まぁ、確かにな…んで、三井さんはその女の子に一目惚れしたと』
『バッ!!ちげーよ!!そんなんじゃなくてだな…!!』
必死に反論する三井の顔面は真っ赤で、1ミリも説得力がなかった。
『まぁとにかく…その子の特徴とかは?』
『めちゃくちゃ可愛かった…』
『そんなんでわかるかーッ!!もっと見た目の特徴とか!!』
『見た目の特徴か…黒髪で、長さは確か背中くらいまであったかな…』
『…駄目だ…情報が少なすぎるぜ…』
『だよな…その子、俺と目が合った瞬間、すぐに逃げちまったんだよ』
『この学校には女子バスケ部もないしなぁ…』
『おい!お前ら!部活始めるぞ!!』
体育館の片隅にしゃがんでいた三井と宮城の頭上から、野太い声が聞こえてきた。
バスケ部キャプテンの三年、赤木剛憲だった。
『おう』 『おーす』
そこでこの会話は途切れ、結局何の手掛かりもないまま部活は開始された。