第10章 恋する香り*実渕*
1時間目の授業が終わるチャイムが響く。
私はいつも通りポーチを持って彼の席へ向かった。
「玲央ちゃん!今日もよろしくお願いします!」
「はいはい。早く座りなさい。」
毎日1時間目の放課に、玲央ちゃんに髪の毛をセットしてもらうのが習慣となっていた。
きっかけは、彼と席が前後だった時。
どうしても寝癖が直らなくて、後ろの席の彼に見つかってしまったのだ。
「名前ちゃん、ここ寝癖ついてるわよ。」
玲央ちゃんがくいっと私の髪を引っ張った。
「うー…頑張ったけど直らなかったんだもん。」
「まとめちゃえばいいじゃない。」
「あたし致命的に不器用なんだよー…。そっちの方が時間かかっちゃう。」
そう告げると、彼は自分のポーチから綺麗な櫛とヘアゴムとピンとワックスを取り出した。
「やってあげる。ちょっとじっとしててね。」
まるで美容師さんのように、手慣れたようにセットしていく。
ものの5分で、私の頭にはふんわりしたおだんごが出来ていた。
「はい、できた。見てみてちょうだい。」
鏡を覗くと、いつもと全く違う自分の髪型。
「玲央ちゃんすごいすごい!!毎日やってほしいくらい!」
「別にいいわよ?私、髪の毛いじるの好きだし。」
冗談半分で言ったことがまさか実現するなんて。
口にした自分自身も驚いたのを覚えている。