第32章 可愛い顔して*桜井*
ここのところ、桜井の様子がおかしい気がする。
部活帰りのスイーツ巡りも誘ってみても「今日はスミマセン…。」と言われて断られる。
部活後、練習を終えて体育館を出ようとする彼を呼び止めた。
「ちょっと待って、桜井!」
「…何ですか?」
振り向いた彼の表情は影を落としていた。
その瞳はいつものキラキラした輝きを失っていた。
「最近元気ないよね?どうしたの?あたしで良ければ話聞くよ?」
私は彼の両手を覆うようにぎゅっと握った。
「…っ!」
一瞬彼は苦しそうな表情を浮かべ、私の手を払った。
「…桜井?」
すると彼は壁に両手をつき、少し屈んで私に顔を近付けてきた。
「苗字さんはいつになったら、僕を男として見てくれるんですか?」
その声は微かに震え、目には涙を溜めている。
「え?」
「僕はあなたが好きなんです。だけどあなたは僕のことを異性として好きじゃない。」
彼の言葉を理解できなかった。
「何言ってるの!?あたし桜井のこと大好きだよ!」
「じゃあ僕が今ここでキスしてもいいんですか?」
そう言うと彼の顔がどんどん近付き、吐息を感じるほどまでに距離が縮まった。
桜井が全く違う人に見える。
恐いよ。
心臓が煩いくらいに鳴り響く。
彼は私の戸惑いを察知したのか、スッとまた距離を放した。
「…スミマセン。」
彼は呆然とする私の隣を通り過ぎて体育館を出た。