第2章 怪しい従業員
奥から一人の男が怠そうに出てきた。
錦戸「なぁ、今日 狩りに行くのは横山くんやろ?」
少し色の黒いタレ目の男前が、私を見るなり口をつぐんだ。
錦戸「あ、行かなくても足りそうやな」
にやりと笑いながら呟くと
横山「しい、聞こえる、失礼だぞ」
ニヤニヤしてる錦戸を牽制し、礼儀正しく
横山「お客様失礼しました。
実は、昼頃の雷雨のせいで電話線が切れたようで、当ホテルでも電話が使えなくなっておりまして...」
横山は説明をしてくれた。
そうだ、その雷雨で私ははぐれて道に迷ったのだ。
「では、携帯電話を貸して頂けないですか?私は山に落としてしまって、家族に連絡を取りたいんです」
この言葉に三人は少し笑みを浮かべながら
村上「生憎、ここは山奥のホテルで携帯も圏外になっておりますので、使う事が出来ません」
元気そうな、名札に村上と書いた人が答えた
「そんなぁ、どうしょう....」
私は困り果てた、ここまでやっとたどり着いたのに、
もう、どうしていいかすら分からなくなって、その場に座り込んでしまった。
その様子を見た彼らは
錦戸「では、今日は当ホテルでお過ごしになったらいかがでしょうか?明日には電話線が復旧するかもしれませんので」
錦戸という名札をつけた彼が笑顔で、少しかがみながら言った。
「本当にいいんですか?」
私は弱々しく顔を上げて答えた。
錦戸「もちろんです」
私の言葉に白く光る歯を見せて錦戸は微笑み、
横山は片方の口角を上げてにやりと笑った。
「でも、私 今はお金をそんなに持ってなくて」
私は申し訳なさそうに答えると、
村上「そんなの、お困りなんですから、結構ですよ」
村上が微笑みながら答えた。
「いえ、家に帰ったら必ず払いますので、それでいいですか?」
横山「ありがとうございます」
礼儀正しく、横山が頭を下げた。
そして横山が指を鳴らすと、一人の小柄な男性が現れた。
安田「お預かりします」
優しく微笑み、荷物を胸に抱えた。
「ありがとうございます」
少し小声の私に、安田は笑顔で答えてくれた。
「それではご夕食まで、お部屋でごゆるりとお過ごし下さい」
横山の声と同時に、
荷物を持っている安田の足が動き、
私はその場を後にした。