第1章 古びたホテル
私が、その古びたホテルの前に立っているのは、
友達とのハイキングではぐれてしまったからだ、
孤独と恐怖に耐えながら、さ迷っている私の目の前に見えた、救いの光のような灯りに引かれて、このホテルに来た。
少し古ぼけたホテルを前に、私は深呼吸をして息を調えた。
何故かここに来て心に重いモノがのし掛かっていたからだ、言葉に出来ない不安が胸の奥から生まれてくる。
でも、ここで電話を借りられたら助かる、
その一心で、私は勇気を出して重そうな扉を開けた。
「すいませ~ん」
私は恐々と声を出した。
少し古びた広いロビーには誰もおらず、灯りだけが静かに灯っているが、人の気配さえ感じなかった。
もしかしたらここは廃墟なのかとさえ思える、
その瞬間、身体に寒さが走った。
横山「どうされましたか?」
色の真っ白の紳士が、いつから私の後に居たのか
静かに声をかけて来た。
横山「ご予約のお客様でいらっしゃいますか、」
横山はカウンターの記帳を見ながら私に尋ねて来た。
「いいえ、ちがうんですが....それが実は....」
私は何故か、この誰もがドキッとするほどの男前に、恐怖を感じていた。
村上「あれ、今日の予約はなかったんちゃうん?」
少し大きな声の元気そうな男の人が、不思議そうな顔をしながら現れた。
横山「臨時のお客様でお通ししろ」
横山は村上に耳打ちした。それを理解したように頷いて、村上は私に微笑みかけた。
「あの、私、実は道に迷ってしまって、、電話を貸して頂けないですか?」
私は勇気を振り絞り二人に、電話をお願いした。
その言葉に二人は顔を見合せ、
こそこそと話をし始めた。
その光景が、私には不思議だった。
なぜすぐに電話を貸してくれないんだろ?
何があるんだろ?
私はこの時に、
直ぐにでも逃げだしていたら良かったのだ。