第10章 秘密
次の日、学校に行ってもやはり状況は変わらなかった。
いつものとおり、元気で明るい心結。
廊下ですれ違う時も夢や他の友達たちと楽しそうに笑っていたし、部活でも普通だったように感じる。紛れもない、普通の女子高生。
でも、少しだけ様子がおかしかった。
話しかけても気付かなかったり、話をしていても上の空だったり、元気で明るいのは変わらないが、いつもと少し様子がおかしい。
だが、緑間は眠いのだろうと思い、特に気にしてはいなかった。
「高槻」
横から話しかけても返事がない。
「高槻!」
先ほどより少し大きな声で名前を呼ぶと、心結はビクッと体を震わせて声のする方を見た。
「どうした?大丈夫か?」
「うん!大丈夫ごめん!」
「…もらっていいか?」
緑間は心結が手にしているドリンクのボトルを指さした。
心結は慌てて緑間にボトルを差し出す。
「ありがとう。」
少しばかりの給水時間。
W・Cが終わって先輩達が引退してからというもの、少し練習中も静かになった。
大坪、木村、宮地がいなくなり、怒られることも、一緒にプレーすることもなくなったのだ。仕方無いとはいいつつも、やはり寂しかった。
高尾は別の部員達とまだシュート練習を続けていた。緑間はドリンクを飲みながらその様子を眺める。
「……やっぱり、先輩達が引退するとさみしいね。」
「…そうだな。少し、静かになった気がするのだよ」
「宮地先輩みたいに怒る人もいなくなっちゃったからね。」
「怒る声がないと、それはそれで何か物足りなさを感じるな」
「確かにそうだね。…先輩達、みんないい人で大好きだったなぁ……」
体育館を眺めても、三年生はもういない。
人数も少なくなり、活気がなくなったことは否めない。
新生バスケ部になってもやはり寂しかった。
しばらく先輩達のいなくなった練習風景を眺めていると、高尾が戻ってきた。
心結は高尾にもドリンクを渡す。
「サンキュー」
渡したドリンクを高尾は一気に飲み干すと、緑間と一緒に水道へ向かうため体育館を出て行った。