第10章 秘密
高尾は一旦自転車を道端に停めて話し始めた。
「アイツの家は共働きで、昔から父親も母親も働きずめだったんだ。そのせいか知らねーけど心結が9才の時に空が生まれて、しばらくして父親がある日突然病気で倒れてそのまま亡くなってさ。
元々心結の母親は仕事で海外飛び回ってたみたいなんだけど父親が亡くなってから家計を支えるためにまだガキの心結と空残して仕事行って、さらに家に帰ってこなくなったんだ。
さすがに家に9才の心結と生まれたばっかの空を残しておけないからってオレん家と心結のおばあちゃん?の家で二人のこと面倒見てたんだよ。
でも中学生になって、心結が自分のことは自分でやるって言い出してから空はおばあちゃんの家で、心結は一人であのでけー家に住んでるってワケ。」
高尾は寒さでかじかんだ手を擦りながら言った。
しゃべる度、吐いた息が白く見える。
緑間は何も言うことなく、ただ黙って高尾の話を聞いていた。
もう一年近く一緒にいるのに、毎日のように顔を合わせているにもかかわらず、そんなこと全く知らなかった。
心結の家に行ったあの日だって親がいないことを特別気にしている様子もなかったし、何より普段の行動からそんなことは伺うこともできない。
「アイツはそんなに気にしてないみたいだけどさ、そんなこと言ったって寂しいに決まってんだ」
なんと言えばいいのか、答えが見つからない。
「いつも明るくて元気だけど、きっとそれはオレさえも気を使わせたくないからだと思うんだよ。アイツ、そーゆーとこあるからなぁ」
「………全く、気付かなかったのだよ」
「…もっと頼ってくれていいのによ、毎日一緒に過ごしてるんだからさ。」
高尾は空を見上げた。
今にもこぼれ落ちてきそうなくらい、満天の星空だ。