第10章 秘密
高尾は心結に別れを告げると、足早に帰宅した。
と、いっても心結の家から3歩で行き来できるのだが。
リビングへのドアを開けると、そこにはいつものように母親と妹の姿があった。
「あら、おかえりなさい」
「なんだ、お兄ちゃんか〜」
「ただいま。って、なんだってなんだよ!」
ソファーに座ってテレビを見ている妹ちゃん。
高尾の姿を確認すると、すぐにテレビに向き直った。
「ご飯、もうできるけど食べる?」
「あー、先に風呂入ってくるわ」
そう言うと、高尾は荷物を置きに自分の部屋へと上がった。着替えを持って洗面所へ行くと、浴槽にはまだ温かい湯がいれてあった。
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湯船に浸かりながら、考える。
また、言えなかった。
W・Cが終わって部活が一段落してから言おうと思っていたのに。いつまで経っても思い切れない。
「………好きだ」
いつまで経ってもその3文字が言えない。
たった3文字なのに。
中2の時に心結を好きになって、早2年が過ぎた。
それまではアイツのことなんて友達としか思ってなかったのに。確かに好きで、特別な存在ではあったけれど、恋愛という意味での「好き」ではなかった。
それが途端に「好き」に変わったのは、心結が滅多に見せない泣いているところを見てしまったから。
唯一の弱いところを見てしまったから。
寂しい思いをさせたくないと思った。
泣きやんだあとの、赤くなった目で一生懸命オレのことを見て笑った姿がかわいくて、綺麗だった。
そんな台詞、簡単に言えるはずなんだけど相手がアイツだからいつまで経っても言葉にできない。
フられるのが怖いというよりも、今のこの関係にヒビが入ることの方が怖い。
さっきだって、心結を呼び止めて言ってしまおうと思った。今までだって何回思いとどまったことか。
いっそのこと言ってしまえばラクになる気もするが、そんな簡単なことじゃないんだ。
ったく、どうしちゃったんだよオレは。