第9章 W・C
心結はマネージャーとして、応援席にいた部員、そして応援してくれた保護者や学校の関係者に挨拶に行った。かろうじて泣くのを堪えてはいるが、本当はそれどころではない。
少しでも早く、みんなのいるところに戻りたかった。
全てを済ませ、心結は駆け足でロッカールームに向かった。ドアを開けると、燃え尽きたように座り、佇む部員達。
心結に気付いた大坪は、涙を拭って心結に頭を下げた。
「高槻。応援、本当にありがとう。そしてよく頑張った」
「お疲れ様です。ほんとうに、ありがとうございました。皆さん」
心結も頭を下げた。
頑張ったのは、選手達のはずなのに。
お礼の言葉を言われた途端、我慢の限界で涙が溢れた。今だけは止められない。
高尾はロッカーを背に、足を投げ出して座りながらジャージの袖で涙を拭っていた。
緑間は今こそ泣いてはいないが、目が赤くなっている。
それを察してか、監督も静かにこの様子を見守っていた。
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数分後、皆泣き止み話は次の試合へ。
「結果は惜しかったが、これで終わりじゃない。次は3位決定戦、誠凛か海常だ。3年もまだ引退じゃないぞ」
監督の言葉に一同は声を揃えて返事をした。
そうだ、まだ試合は残っている。これで最後ではないんだ。
緑間は高尾と一緒にロッカールームを出ていった。
とりあえず、心結も間もなく始まる誠凛対海常の試合を少しだけ見に行こうとドアを開けると、コートを見つめる緑間と高尾の姿が見えた。
今はそっとしておこうと、心結は声をかけず、二人の反対方向へ歩き出す。すると、いきなり後ろから声をかけられた。
「心結、」
高尾の声だった。
振り返ると、緑間と高尾はこちらに向かって歩いてきた。どう言葉をかけようか迷っていると、高尾はニッコリと笑った。
「心結、お疲れ。ありがとな」
「…ありがとう」
二人の突然の感謝の言葉に、心結は呆然とした。とても、笑顔で話す気分ではないだろうに。
「…お疲れ様、」
お疲れ様以外、返す言葉が見つからない。
こういう時はなんて言えばいいのだろう。
「………ごめん、負けちった」