第7章 鷹の目
オレも物心がついてしばらく経った頃、母さんから心結の父親のことを聞かされた。
その時はよく理解できなかったけど今なら分かる。
その当時はアイツも相当落ち込んでた。そりゃそうだよな、いきなりあんなこと聞かされて悲しくないわけがない。でもしばらく経つといつもの元気な心結に戻った。
今だってそんなことが嘘だったかのように毎日元気で明るい。学校に行って、年の離れた弟の面倒を見て、それだけで疲れて大変なはずなのにいつもオレたちの居残り練習に嫌味一つ言わずいつも付き合ってくれる。それはバスケが好きだからってこともあるだろうが、ホントにすげーと思う。
でも中二のある日、オレは心結らしくないところを見た。いつものように公園でバスケをして帰る途中のことだった。
「…もういや。」
「…どうしたん?」
「いつも誰もいない家に帰るのが嫌なの。朝誰もいない家を出て、帰ってきても誰もいない。それが嫌なの………お母さんとお父さんに会いたいっ……」
顔を両手で覆って泣き出す心結。
心結の父親が死んだ時以来、久しぶりに見る涙だった。いつも明るく周りに振舞っていたが、どれだけ悲しかっただろう。
「……ほんとは、すごく寂しいよ…っ」
どれだけ寂しかっただろう。帰ればいつも親がいるオレが言えたことじゃないが、考えてみるとその気持ちが少しでも分かる。
必死に嗚咽を堪えている心結の頭を高尾は優しく撫でた。
「…寂しかったよな、ごめんな、気付いてやれなくて」
それでもまだ心結は泣くのを堪えようとするんだ。
「…でもほら、オレがいるじゃん。だから泣くなよ」
「…泣いてないもん。」
「いやいや、それで泣いてないはおかしいだろ笑 ほら、笑え笑え!」
そう言うと心結は涙を拭って泣きながらにっこりと笑った。
「泣くとブスになんぞー」
「…うるさい。もう絶対泣かないから」
オレにはその時の笑顔がやけに眩しく見えた。