第7章 鷹の目
わたしが小さかった頃、お母さんに聞いた。
「お父さん、どこ行っちゃったの?」
お母さんは一瞬悲しそうな顔をして、笑顔で答えた。
「お父さんはね、仕事で違う国にいるの。しばらくは帰ってこれないんだって。」
その時はそれが本当のことだと思っていた。
でもその話を聞いてから、一年経っても、二年経ってもお父さんは帰ってこなかった。
「お父さん、いつになったら帰ってくるの?」
わたしはまたお母さんに聞いた。
するとお母さんは、わたしを抱きしめて泣きながらこう言った。
「お父さんはね、もういないの。ごめんね、ずっと言えなくて、ごめんね」
まだ幼かったわたしはそれも嘘だと思っていた。
でも、父親の記憶は9歳までのもの。
ある日突然消えた父の記憶はそこで止まっていた。
何年経っても、いつになっても父親は帰ってこない。
その事実を知ったあと、心結は初めて父親が埋まっている墓を訪れた。涙が止まらなかった。
家にはなかなか帰ってこなかったが娘思いの母親、そして温厚で物静かな祖母、明るく楽しい高尾家。
それほど不満はなかったがやっぱり悲しかった。
その寂しさを紛らわすようにわたしはバスケに夢中になった。和成と夜遅くまでバスケをして、毎日泥だらけになって帰ってくる。今考えたらとても迷惑をかけた。
でもそれが楽しくて、バスケをしているときは何もかも忘れて心から楽しいと思えた。
中学校に入学してからは一人で過ごす時間も増えた。
あまり人に頼らなくても自分でできることも増え、何より困ったときはいつも和成が助けてくれる。
だから怖いことなんてなかったし、安心させてくれる存在だった。