第6章 此処から
初めて味わう敗北感。
緑間は止む気配のない雨の中、ただ真っ黒な空を見つめていた。拳を握るとこれが現実なんだと理解する。
「……………」
もう少しだけ此処にいようと、緑間はその場に佇んでいると横から声が聞こえた。
「緑間くん、風邪ひいちゃうよ」
そこには傘をさした心結の姿が。
「ごめんね、話しかけようとしたら電話がかかってきたみたいだったから。少し話聞いちゃった」
「…高槻か。」
何も考えられないまま心結の方へ振り返る。
心結は自分の傘を緑間に差し出した。
「お疲れ様。でもほら、風邪ひいちゃうから傘さして」
「…すまないが、もう少し一人にしてくれないか」
「すごくいい試合だったよ。負けちゃったけど、わたしはそんなに嫌な気持ちじゃないんだ。あ、ごめんね、わたしは試合にも出てないのに…」
「いや、気にしなくていいのだよ。」
そう言うと緑間は差し出された傘を押し返した。
「……悔しい?」
緑間は虚ろな目のまましばらくその場で考えると、
「…これがきっと、悔しいという感情なのだろう。味わったことのないかんじだ」
「そう、だよね。そりゃ悔しいよね。」
「……すまないのだよ、I.Hに連れていってやれなくて」
心結は土砂降りの雨の中、緑間の隣に立って話した。
「すまないも何も、緑間くんが一番悔しいでしょ」
「そう、だな」