第17章 もう大丈夫
「それはまだ小さかったわたしに寂しい思いをさせたくなかったからだと思うんだぁ。あの時はお父さんは海外に出張に行ってるからしばらく帰ってこないって言われて納得してたけど、お父さんが何も言わずにわたしたちに何も言わずに海外に行っちゃうわけないもん。」
やはり、今だってまだ父親に会いたいと思う。
最後に交わした言葉はなんだったか。
もうとっくに忘れてしまった。
「まだ小さかったわたしは、お父さんがいなくなったってことに納得できなくて、お母さんがずっとウソついてたんだってどっちもすごいショックで。それを紛らわすために和成とずーっとバスケしてたの。
でもね、今思えばわたしなんかよりお母さんの方がよっぽど辛かっただろうなーって」
「…なぜそう思う?」
「…お母さんがわたしの前で泣いたのはお父さんはもういないって言ったときただ一回だけだった。今思えばお母さんはわたしがいないところで泣いてたんだよ。わたしには見せないけれど、影から見た時にあれは確かに涙だった。」
「………」
「泣いててもわたしを前にするとすぐに泣き止んで笑顔になるの。それはきっとわたしにさえも心配をかけたくなかったからだと思う。
お父さんが死んで、まだ小さいわたしと弟残して不安だっただろうし、その上海外に仕事に行かなきゃいけない辛さがあったんだと思うんだぁ。」
「………」
「わたしだってお父さん大好きだったけど、それ以上にお母さんがお父さんのこと好きだったの知ってるから!
わたしなんかよりお母さんのほうがずーっと辛かったし悲しかったと思うとなんだか申し訳ない気持ちになってきちゃって……」
それを考えるとなんだか目の前が霞んできて、心結は目を擦った。