第16章 ユラユラ
「……高尾くんっ!」
高尾は何も言わない。
ただ夢の手を掴んでひたすら走り続けるだけだった。
「…やだっ」
「……」
「…もうっ放してっ…」
「うおお!わりー!」
もうどれだけ走っただろうか。
少しスピードは落としてくれているだろうが高尾に引っ張られながらひたすら走るのももう限界に近づいてきて、夢は苦しくなって高尾の手を強く握った。すると高尾は驚いたようにいきなり走るのをやめ、その場に立ち止まった。その衝撃で前のめりに倒れ込みそうになるが高尾が両手で支えてくれた。
「はあっ…はあっ…」
「悪い、あんなことしたもののやっぱり急に恥ずかしくなって…」
息が上がって声が出せない。仕方なく夢は頷いて見せた。
「大丈夫か?苦しいよな…」
気遣うように高尾は優しく夢の背中をさすった。しばらくすると息も整ってきて、辺りを見渡すともうそこに人はちらほら数えるほどしかいなかった。
無我夢中で走っていたせいか、ここがどこなのかイマイチ分からない。けれど近くには大きな川が流れていた。
そうだ、ここはあの時緑間に話を聞いてもらった場所だ。
「無理やり連れてきて悪かった。でも、」
「……なんで?」
「…え?」
「……なんでっ…せっかく忘れようとしてたのに…っ」
目から大粒の涙が溢れた。
一度溢れ出してしまったら、もうなかなか止まらない。
「高尾くんのこと忘れようと頑張ってたのにっ…なんで今さらこんなことするの?高尾くんの好きな人は心結ちゃんでしょ!?」
「……ごめん、謝ることしかできねーけどオレの話聞いて欲しいんだ」
夢は赤くなるまで瞼をこすった。
何度も何度も、涙が溢れてこなくなるまで。