第16章 ユラユラ
まだ顔に不安の色を見せる夢を尻目に、心結はハァーっと一回大きな溜め息をついて笑顔で手を振りながらこう言った。
「ばいばーい!お幸せにー!」
いきなりのことに周りの人々も目を丸くして驚いていた。
だが心結含めて誰もがこう思っていただろう。
「「「青春だなあ。」」」
夢と高尾の姿が見えなくなるまでその後ろ姿を眺めていると、心結はポケットの中から携帯を取り出してある番号に電話をかけた。
呼び出し音が数回鳴ると、そのまま相手に繋がった。
「…もしもし?ごめんね、突然電話しちゃって…」
『大丈夫だ。』
噛み締めるようにゆっくりと話す。
落ち着いていて、どこか優しい声で。
「…今どこ?少しだけ時間あるかな?」
『ちょうど帰る途中だ。時間ならある。』
「…あのねっ、」
『……?』
呼吸を整えるように数回深呼吸してからゆっくりと心結は言った。
「えっと!……今から会えないかなぁ?…急に会いたいなぁって思って、」
『…オレもちょうど会いたいと思っていたのだよ。…迎えに行く。』
電話越しにフッと笑った緑間が想像できた。
その顔を思い出してさらに会いたい思いが強くなる。
夕闇が濃くなる中、場所は違えど二人の背中を優しい夕日が照らしていた。