第16章 ユラユラ
「…わたしね、高尾くんと別れたんだぁ」
「…それは交際をやめた、ということか?」
「…うん」
夢は静かにこくりと頷いた。
「…なぜ、」
「………」
なぜだろう。自分でもよく分からない。
本当に高尾のことが好きだった。けれどこれ以上迷惑をかけたくないから高尾と別れた。
悔しいが自分でもこの選択は間違っていなかったと思う。
「…高尾くんがケガしたのはわたしのせいなの。わたしを庇って高尾くんがケガしたの。…高尾くんと一緒にいたら迷惑かけちゃうし、高尾くんだってその方がいいに決まってるから」
「………」
「また高尾くんに嫌われちゃったぁ……」
緑間は何も言わなかった。
ただ何も言わずに何者にも逆らうことなく流れる川を見つめていた。
こんなわたしを、緑間はどう思っているだろう。
「…オレはそうは思わない」
「…え?」
突然口を開いた緑間に、夕日に照らされた川を眺めていた夢は顔を上げた。
「オレは、高尾がそんなことを考えているとは思えない。」
「…でもっ…散々迷惑かけてそのうえあんなケガまでさせて…っ」
「迷惑だと思っている相手を庇うか?」
「高尾くんは優しいからっ…」
「普通は何とも思っていない相手を親切で守ろうとはしないのだよ。ましてや命懸けだ。いくら高尾でも、そんなことはしない」
まさか。
高尾くんは優しいから、迷惑に思っているわたしでさえ放っておけなかったに決まっている。だって、高尾くんは心結ちゃんが好きなんだから。
「迷惑をかけているというのは西堂の勝手な妄想なのだよ。…もっと素直になったらどうだ?」
「…………」
夢は膝を抱えて丸くなって何も答えない。