第16章 ユラユラ
「…だから泣くなって」
けれど。
夢は目を擦るとゆっくりと顔を上げた。
顔を上げると、自然と高尾と目が合った。
「……でもっ…高尾くんがケガをしたのはまぎれもなくわたしのせいだから……っ」
高尾は何も言わず、夢の言葉を待っていた。
「…だからね、高尾くん」
誰もいない、しーんと静まり返った病室では時間だけがゆっくりと流れた。
「だからね、……もうおしまいにしよう」
「……?」
夢の言っている意味が分からなくて、高尾は一瞬止まってから問うた。
「おしまいってどういう…」
「もうおしまいにしたいの………だからっ…わたしとっ……」
嫌な予感がした。
「……別れてください」
「……は?」
夢の言葉の意味が全く分からなくて、一瞬耳を疑った。その場で固まって動けなくなる。
別れる?別れるってどういう意味だ?
「…待てよ。別れるってどういう…」
「別れてほしいの!だからもう恋人の関係は終わりにしようってこと!」
言葉の意味が分からなかった。
いきなり何の話だろうか。
「ちょっと待てよっ…オレを元気づける冗談にしてはガチすぎるだろ」
「冗談じゃないの!…本当に、言ってるの」
まさか、と思い、高尾はいつものように笑いながら言った。けれどこの雰囲気は壊れるどころか悪くなる一方で、だんだんとこの話が現実味を帯びていく。
高尾も察してか、焦りを含んだ声で言った。
「…なんでだ?まだ何が起こってるかよく分かんねーんだけど!」
恐る恐る夢を見ても、夢は顔を上げるどころか何も喋ろうとしない。
夢中になって、脚の痛みすら何処かへ飛んでいってしまっていた。