第16章 ユラユラ
その日、初めて救急車に乗った。
怪我はしているものの高尾の意識はしっかりとしていて、命に別状はないらしい。言われるがままに救急車に乗り込み、うろ覚えなその時の状況を話した。
鮮明に覚えているのは血の赤と救急車のサイレンの音だけ。
あとはもう頭から抜けてしまった。
高尾は救急車のベッドで横になり、夢はその隣に座る。応急処置で止血された高尾の脚にはぐるぐる巻にされた包帯に、制服にこびりついた生々しい血の匂い。
頭が痛くなりそうだ。
「…夢」
あぁ、なんでこんなことになってしまったのだろう。
これ以上にないくらい自分の行いを後悔して自分を恨んだ。
「…夢!」
「っ!」
いきなり手をギュッと握られて、驚いて我に返った。
「夢」
「どうし、たの?」
「…お前のことだからまた泣いてんじゃねーかって思ってさ。」
「……………」
「ほんとに気にすんなよ。お前が悪いんじゃねーから。お前だって体、いてーだろ?」
確かに全身が痛い。トラックに轢かれる瞬間に勢い良く高尾に体を押され、その衝撃で倒れてアスファルトに全身を強打した。
けれどこんな状態で痛いなんて言っている場合ではない。高尾の方が心も体も何倍も痛いはずなんだから。
「……わたしのせいで高尾くんが……っ」
「……何も考えられなかった。気付いたら考えるよりも先に体が動いてたんだ。お前を守ることしか考えてなかった」
「……………」
なんと言って謝ればいいのだろう。
言葉が見つからない。倒れているのが高尾だと気付いた時から涙が止まらなかった。
わたしのせいでまた高尾に迷惑をかけてしまった。
冗談じゃ済まされないことだ。
悲しくて怖くて、自分の不甲斐なさが悔しくて止めようとしてもとめどなく涙が溢れてきた。もうあれから何分経っただろう。
一番辛いのは高尾くんのはずなのに、あれから病院に着くまで高尾くんは泣いているわたしを安心させるためか、ずっと弱々しい力でわたしの手を握りしめていてくれた。