第15章 緑とオレンジ
「…え?」
「アメリカに戻らなくちゃいけないことになったの。もう少し日本にいられると思ったんだけど、もう行かなきゃ」
茉紘の言葉の意味を理解したのか、空の顔は悲しみに満ち溢れている。下を向いて、今にも泣き出しそうだ。
「…いつ日本を出るの?」
「…来週よ。」
残された時間は今日の残り少ない時間を含めてあと数日。その時間が過ぎれば次、いつ会えるか分からなくなる。
もう高校生とはいえ、やはり寂しかった。
「…ごめんね。またすぐいなくなっちゃって」
なんと言葉を返していいのか分からなかった。
寂しいけれど、素直に寂しいと口にすることはできない。
「ぼく、さみしくないよ!」
その時、途端に口を開いたのは空だった。
テーブルの上にまだ小さな両手を置いて、必死に言う。
「お姉ちゃんもおばあちゃんも、友だちだっているからさみしくないよ!だからだいじょーぶ!…ぜんぜんさみしくないって言ったらうそになるけど…」
「…そうだよ。お母さんが海の向こうで頑張ってるのに寂しいなんて言ってられないもん!」
「空…心結…」
空と同様、全然寂しくないといったら嘘になるけれど、今は支えてくれる人がいるから大丈夫。安心してね。
笑顔でそう言えた。
幼かったこともあるけれど、昔よりも今の方が自信を持ってそう言える気がした。
「ならわたしも安心!」
「うん!」
「それに心結には彼もいるもんね。」
「彼?」
「緑間くんのこと!」
不意に出された緑間の名前に、心結は赤くなった。
確かに支えられている存在である。