第5章 初めてのデート
「ちょっと用事思い出したから……蛍くん、今日はありがとう」
笑んだ彼女が、突然月島たちを置いて走っていく。
その姿はあっという間に小さくなる。
かなり全速力で走っている。
「おい、月島、俺らなんかしたか?」
わからない。
彼女が何を考えているのか、やっぱり読めない。
「わりぃ、なんか俺らが怒らせたかも」
珍しく焦った顔の西谷が彼女が消えた方向を見つめている。
「そう思ってるなら、早くどっか行って下さい」
無意識に出たマジ声に、2人はしゅんとしぼむ。
基本、悪い人じゃないけど、もっと場の空気読んで欲しい。
「てか、早く追いかけろよ、月島」
「そうだぞ」
「言われなくてもわかってますよ」
イラっとした声音になった。
ホント、よけいなタイミングで現れて迷惑だ。
自分以上に臆病でためらってばかりの小動物を、ようやく飼いならしたと思ったところだったのに。
後を追いかけ、遊歩道の途中、芝生の中に噴水があるあたりで追いついた。
こういう時、背が高いと歩幅も長くて有利だ。
「ちょっとっ」
後姿に声をかけたが無視される。
なんなんだ……ったく。
仕方なく、走りつづける彼女を追い越して、前に回り込むと肩を掴んだ。
「ちょっと、なんで逃げるの」
「………」
まだ走り続けようとする彼女をぎゅっと抱き込む。
「急に帰るって、なんで?」
「………」
「だから、黙るのやめてもらえる?」
「………」
「てか、帰るなら僕の気持ち聞いてからにしてくれる?」
さっき言おうと思っていた言葉。
「僕も、はなさん好きだから」
「………うそ」
「僕はウソ言わないから」