第5章 初めてのデート
気づかれないようにほっと息を吐く。
これでこっちも言える。
「ごめん…ずっと言わないでおこうと思ってたの」
「なんで?」
「……」
「まただんまり?」
「違うの、あの、私……」
月島のお腹の高さで下を向いていた彼女が、顔を上げた。
「蛍くん、私ね、」
「あれ、月島じゃん!?」
「あ、ホントだ、何してんだよ、こんなとこで」
彼女の声に被るように後ろから声がかかる。
田中と西谷だった。
最悪……
「おい、お前今最悪とか思っただろ!!」
カンのいい西谷が指差しながら叫ぶ。
「なんだと~、先輩に向かってなんだその態度はっ」
「そうだそうだ」
がなり立てる2人の登場に、彼女がとっさに体を離す。
「僕まだ何も言ってませんけど……」
「あれ、なに、お前デート中だったのか」
「違います」
「違わねーだろ。なんだよ、紹介しろよ」
「だから違いますって。てか2人ともどっか行って下さい」
素で言うと、また「なんだと~!」と西谷がつっかかってくる。
「あの、月島の彼女さんっすよね?……小っちゃくて可愛いっすね!」
田中がなぜか顔を赤らめて訊く。
「いえ、あの……私、ちが……」
「だから違うって言ってるじゃないですか」
「ウソつけ、こんな夜に2人でいちゃいちゃしやがって!」
「そうだそうだ!」
うらやましいのか?
八つ当たり?
「お前、今八つ当たりとか思っただろ!?」
「別に俺ら羨ましいとか、ぜんっぜん思ってないからな!」
こういうカンだけは鋭い。
「ってか、そっちこそ2人して何してるんですか」
「俺らはそこで今映画見てきたんだよ。西谷おススメのこてこてアクション」
たしかに水族館の裏に大きなショッピングモールがあって、映画館も入っている。
「お前らは?」
「別になんでもいいじゃないですか」
「彼女と一緒に……」
「水族館デートか……」
「だから違います。別に彼女じゃありませんから」
言ってから、ちらりと彼女を見る。
曖昧に笑んだ顔が、ちょっと悲しそうに見えたのは、気のせい?
それとも勝手な希望的観測?
だって、彼女じゃない、今は。
今ちょうどそうなりかけようとしていたところだった。
「ねえ、蛍くん、私先に帰るね」
「え、なに急に」