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笑顔のバッドエンド

第1章 01


 今年の夏は猛暑だった。暑さにやられ死んだ者もいたが、それ以上に当時流行っていた病で死んだ者がいた。サッチの親友であるマルコが倒れたのは、そんな時だ。
 当時は暑さにやられたと思っていたが、一向によくなる気配がない。辺りの人間も次第に怪訝に(なんせ流行り病は死病だったから)思い、最終的にマルコは町にいられなくなった。
 夏の終わり、9月の頭にマルコは引っ越した。引っ越した場所と言うのが町で「狐の妖怪が住んでる」と噂されている「狐山」で、サッチはあまり快く思えない。しかしマルコ自身なんとも思っていないようなので、何も言えなかった。
「おいマルコ。生きてるかー?」
 縁側から失礼して、サッチは声を掛けた。
 マルコが越した頃は週に2・3回程度ここへ来ていたが、最近どうも調子がよろしくないらしく、サッチはほぼ毎日マルコの元へ訪れる。今日も例外ではなくサッチは縁側からズカズカと家の中へと踏み込むと、マルコが眠っているであろう布団を軽く剥がす。そして、固まった。
 剥がした先にはあの特徴的な髪型はない。が、代わりと言わんばかりに、美しい銀糸が布団に散りばめられていた。
(誰だ、こいつ……?)
 訝し気に思いながら、サッチは全ての布団を剥がした。
 小さく丸まった身体は、古い着物を纏っている。先程見えた銀糸は腰まで長さがあり、髪色と同じ犬のような耳、そしてふさふさと柔らかそうな尾っぽが尻から生えているその姿は、正しく妖怪と言えるだろう。
「この山の主を、見たんだよい」
 昔、ここに越してしばらくの頃。熱に浮かされたマルコが口走った言葉を、サッチは思い出した。当時は笑い飛ばしていたが、今はうん。確実に信じられる。
 静かに掛け布団を掛け直して、サッチは布団から少し離れた場所に座り込んだ。
 確かあの時は怪我したのを助けた、とマルコは言っていた。ならあの子は助けられて以来、此処に居座っているのだろうか?なんの為に?そこまで考えて、最悪の事態が頭に浮かぶ。
(マルコ。あの狐に化かされて、死んでんじゃねェだろうな……)
 サッと血の気が引いて、サッチは音を立てて部屋から飛び出した。
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