第3章 Act.3
急な事で周りが見えてなかった悠鬼は、そう言われて改めて目の前のゴールを視界に入れる。
いつも見上げているゴールが、今は悠鬼の目の前にありそのまま簡単に入れる事が出来てしまう。
『むーちゃん、凄い!……ゴール触れるでしょ?』
「うん、悠ちん小っちゃいからゴール触った事ないでしょ~?」
『むーちゃんが大きいんだよ!また伸びたでしょ?』
「悠ちんは変わらないねぇ……止まった?」
『まだ止まってませ~ん!』
二人の身長差は縮まるどころか、紫原の成長に悠鬼が追い付いてないので広がっている気がしている。
こんな機会は滅多にないので、紫原に抱き上げられた状態で悠鬼はボールをゴールにシュートさせるが、あの頃のボールがネットを潜る時の心地良さや感触を、感じる事が出来ないのが少し寂しい。
「悠ちん、1on1しよー?」
『え?……む、無理だよ!』
「大丈夫……悠ちんが俺からボールを取れたら勝ち~……片手しか使わないから~」
『……勝負にならないと思うよ?』
「負けたら今度の休みにケーキバイキングを奢る事ー……ねぇ?」
自分に対してハンデをくれた様だが、実力と身長に差があり過ぎて片手でも紫原が勝つだろうと安易に予測出来てしまう悠鬼。
しかし紫原に「ねぇ?」と首を傾げて聞かれると、悠鬼はその無邪気な可愛さに凄く弱いのだ。【最近、紫原も少し分かって来ている】
ゴールの傍で低く構え、向かい合う二人。
紫原がその場で床にボールを叩き付けドリブルをし、悠鬼がそれを奪って相手を抜けば勝ち。
実力に差があるのは当然分かっている。
現役だったとしても紫原に勝てたとも思えない。
だがやるからには本気でやりたい。
負けると分かっていても手を抜きたくない。
元プレイヤーとしての意地もまだ残っている悠鬼は、紫原と対峙すると徐々に真剣な顔付きになって行く。
(まともに出来る様になりたい……いや、勝ちたい!!)
「へぇ~……悠ちんやるー」
紫原は実際に悠鬼の試合を見た時はないが、ブランクがあるものの赤司が言った通り、悠鬼の動きには無駄がない。
それでも男子バスケ部だったら、二軍辺りでレギュラーになれていただろう。