第1章 Act.1
俺は紫原 敦。
秋田の陽泉高校に通う一年生。
部活は男子バスケ部に入部して、毎日変わり映えのない日々を過ごしている。
キセキの世代と呼ばれる俺は、高校バスケでも一目置かれる存在の一人になっている。
「……今、何処にいるんだろ……」
「アツシ……誰?その子……彼女?」
「ん~?彼女じゃないよ~……けど大好きだった。今はもう嫌いだけど」
俺の携帯画面に映る女子を、室ちんに聞かれて少し意味深に言ってしまう。
言葉と裏腹に、未だにその子の写真を消せない俺は未練がましいのかな?
嫌いって言ってるけど、本当はもう一度俺の隣で笑って欲しい。
もう一度会って抱き締めたい。
自分よりずっと小さくて、安心するあの躰を……
「……嘘付きっ」
紫原がその娘と出会ったのは、中学二年生になった頃。
相手は隣の席で、新作のポッキーを食べて居た。
その様子をじっと横目に見ていた紫原の視線に気付いたのか、相手はポリポリお菓子を食べながらニコっと笑った。
『さっきコンビニで買った新作なの!……食べる?』
「食べる~」
一本、ポッキーを差し出されて、紫原は何の迷いもなく相手の手からポリポリお菓子を食べる。
クスクス可笑しそうに笑うその子は、『ウサギ見たい!』と彼の頭を優しく撫でる。
『えっと、紫原敦くんだっけ?』
「う~ん……俺の事知ってる?」
『一応、私もバスケ経験者だから噂くらいは知ってるよ。……私は彩條悠鬼です!これからよろしくね?』
「うん、よろしく~」
紫原は彩條悠鬼と名乗った女子と毎日の様に、珍しいお菓子や新作のお菓子を持ち寄って食べたり、時々一緒に買いに行ったりするようになった。
『紫原って呼びにくいねぇ?……何て呼ぼうか?』
「悠ちんの好きな様に呼んだら~?」
『悠ちん?……ふふ、じゃあねぇ……』
その日も教室でお菓子を食べながら何気ない会話をし、悠鬼は顎に指を掛けて考える仕草をすると……
『むーちゃん!』
「……っ……」
そうやって無邪気に笑って、紫原を呼ぶ悠鬼が可愛くて彼はつい彼女に抱き付いてしまう。
悠鬼の甘い匂いと、柔らかい抱き心地に紫原はいつも安心していた。
相手が困っているのもお構いなしに……