第1章 ヴィシャスなんかじゃないわ!/×澤村大地(ハイキュー!!)
――その日の放課後、澤村家にて、わたしはまたもや禁断症状に襲われた。
ぎゅうううっとベッドに置いてあったクッションに爪を立て、顔をうずめる。
お腹はさっきからグオングオン鳴っている。
「いや、お前さ、本当にそんなになるくらいだったら……」
澤村が勉強の手を止めて話しかけてきた。うるさいやい。これはわたしの意地なんだい。
「今わたしに甘い言葉をかけないで頂戴」
「いや、でも気になって勉強に集中できないよ」
澤村は、ふぅ、と一つため息を漏らして、わたしの横に座ってきた。クッションを奪われる。
「あ、返してよ」
「……チョコレートってさ、恋愛と同じ脳内麻薬が出る、とかって言わない?」
澤村が唐突に変な知識を持ち出してきた。
じっとわたしを見つめる表情は真剣そのものだ。
「まぁ、聞いたこと、なくもないけど」
「恋愛してどきどきしたら、チョコレート禁断症状も無くなると思うんだよね」
「……はぁ、そうでしょうかね」
何となく澤村の言いたいことに察しがついたが、こんなデカイ図体をした高二男子でバレーボール部大将(なったばかりだけれど)、バレーボール一色の色気のない部屋で過ごしている男の子が――
「まさかちゅーしたら治るとか言いださないですよね、大地さんや」
「……そのまさかなんだよなぁ」
澤村は決まりが悪そうに目をそらした。
恥ずかしいのか、頬を指でかいている。
いやはや、少女漫画家も裸足で逃げ出すベタさだ。
澤村大地という人に、そんなシチュエーションは似合わない。
わたしがくつくつと笑いを漏らしていることに気が付いた澤村は、少しムッとした表情になった。
「なんだよ、やってみなきゃわからないんじゃないの? もしかしたら劇的に効くかもしれないじゃないか」
「それにしたって……っ、キザというか、なんと言うか……」
完全に拗ねきった彼はクッションを抱えたままわたしに背を向けてしまった。
後ろから見える耳は真っ赤だ。お父さんキャラ、台無し。
「ごめんってば、澤村。ほら、はやくはやく」
ぐいっと彼の服を引っ張って、キスをせがむ。