第1章 ヴィシャスなんかじゃないわ!/×澤村大地(ハイキュー!!)
世の中に拷問があるとすれば、わたしは今、とびっきりの物にかけられているという自信がある。
お腹がギュルギュルとなっている。さっきカツ丼食べたのに。
澤村からチョコレート厳禁の令が出てから、本日で3日目。わたしは見るからに、しゅるしゅるしゅるーっと萎んでゲッソリしている。
まぁ体重は変わらないのだけれど。
わたしの血液はカカオ70%なのに、これじゃあ何もできない。
禁断症状で手が震える。
実際、チョコレートには麻薬効果が有るらしいが、わたしにとってあれは麻薬だったのだろうか。
マリファナやスピード、ヘロインといった類の。
どうせ死ぬなら、シド・ヴィシャスのようにパンクなことをやってのけてから死にたかった。首に南京錠つけるとか。
「本間、今日俺の家来るんだったよな……って、大丈夫か?」
机の上で見事にくたばっている私の顔を覗き込み、澤村は心配そうに眉尻を下げた。
わたしは反対に、眦を決して彼をきっと睨む。
「澤村……今年はバレンタインは無しにしよう、そうしよう。今わたしにチョコレートの匂いを嗅がせてみろ。たぶん心ゆくまで食べるぞ」
澤村はわたしのあまりの形相に、少し引きながら「お、おう。わかった」と了承した。
物分かりのいい彼氏で大変結構、はなまるをあげよう。
「澤村んち行くけど、ミサキさんにくれぐれもチョコレート出さないように言っておいてね。た、食べちゃうから……っ」
わたしは少し涙ぐみながら切に彼に訴えた。
余談ではあるが、ミサキさんとは澤村家の肝っ玉母ちゃんであり、わたしのことも凄く可愛がってくれている。
家に行くとチョコレートが大量に出てくるぐらいには。
「そんなになるまで我慢しなくても、いいんじゃないの?」
「駄目なの! 絶対痩せるんだから。根性よ、根性。」
鼻白んだ澤村は、頑張れよと一言残して去って行った。
体重が増えちまった女の気持ちは男にはわかるまいよ!