第1章 ヴィシャスなんかじゃないわ!/×澤村大地(ハイキュー!!)
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「ねぇ、わたし、やっぱし太ったかな?」
わたしは自分の頬肉をぷにっと摘んで、わたしの恋人兼クラスメイトである澤村大地に話しかけた。
「いやぁ……俺にはなんとも」
澤村は苦笑いを寄越してくる。
確かに「ねぇ私って太った?」と聞いてくる女ほど面倒臭いものはないだろう。
こうしている間にも、冬季休業前より明らかにわたしの腹回りを締め付けてくるスカートのおかげで、わたしは顔面蒼白だ。
こうなったらプライドを捨ててホックを一つずらすしかない。「……やっぱり太った……このままじゃ、先輩の卒業写真に大福顔で写っちゃう! いかん、いかんよ大地さん!」
「いや、まぁ、確かにちょーっとふっくらしたような……してないような……」
澤村は目線を斜め右上に固定して、わたしの目を見ようともしない。
わたしはついにホックをずらした。涙目になりながら。
「お、おい、泣くなよ。言うほど太ってないよ? ほ、ら……」
澤村はわたしの二の腕を掴む。むにむにむにっと、揉む。むにむにむにむに。
あ、気持ちいい……と彼が呟いたところでわたしは彼の頭をぱこーんと引っ叩いた。
どちらも椅子に座っていたので、身長差なんぞ関係ない。
「もう、いや! 絶対痩せてやる。脱、豚。目指せスレンダー。」
「ダイエットするのはいいけど、一ヶ月に2キロまでにしておきなさいよ」
ひっぱたかれた部分をさすりながら、澤村は幼い子供を諭すよう人差し指を一本立てて言う。
一ヶ月に2キロじゃ、卒業式までに元に戻れないじゃないか!
「それじゃあ間に合わないよ!? せめて3キロとか……っ!」
「だめだ。大体、お前の身長体重で一ヶ月に4キロ5キロ痩せてみろ? 貧血かなんかでぶっ倒れるよ」
だから余裕を持って、2キロまでにしておきなさい。
わたしのことを心配して、そう言ってくれているのがわかるからわたしには反抗のしようがない。
ぐぬぬ、と押し黙ってしまったわたしに満足げに澤村は頷いた。
「じゃあ、まずはチョコレート断ちからだな!」