第4章 散切り頭を叩いても手が赤くなるだけに決まってる/×坂田銀時
頭がシェイクされて、彼の着流しは女の手から移ったあんこまみれで、顔は彼女から飛んだあんこまみれだ。
銀時はブチ切れた。
「アァ~~もう、キャンキャンキャンキャンうるっせーんだよ! 少し黙っとけ、このどぐされチワワが!」
べりっと彼女を自分の体から話すと、女は叫び声をさらに大きくした。
「ちょっとォオオオオオオ! このオッサン私の胸触ったんですけどォ! 警察呼んでください、警察~~!!」
往来に向かって叫ぶ。
痴話喧嘩か何かだと放っておいた道行く人々がざわつき出した。
「はぁああ!? 揉むほどのモンも持ってねーくせに何言ってくれちゃってるんですかコノヤロー!!」
「だっ、誰がまな板よ! 誰が洗濯板よぉ! 言っておきますけど、ささやかくらいには有りますからね!!!」
キーッと彼女はどんどんヒートアップしていき、顔を真っ赤にして、突然糸が切れたようにガクッと膝を折った。
銀時は思わず手を出して彼女を支え抱く。
「えっ、お、オイ。大丈夫か、チワワ」
彼女からの返事はなく、白目を向いたままぴくりとも動かない。口元にはあんこが付いている。
女を少し持ち上げて、彼女の口元に顔を寄せる。――大丈夫、息はしているようだ。
銀時がどうしたものかと悩んでいると、女は突然「フゴッ」と変な声を出した。
「お、生き返ったか!?」
彼が喜んだのもつかの間、彼女は「スカーッ、スカー」と激しく寝息を立て始めた。
「って、オィイイイなんでこの状況で寝れんだよこの女!? 本能に忠実にも程があんだろォ!!! 2歳児か!? こんなナリして2歳児なのかァ!?」
取り敢えず縁台に彼女を寝かせて、銀時は周りをキョロキョロと見渡す。
誰も彼と目を合わせようとしない。
この国は、随分と冷たくなっちまったもんだと独り哀しく思った。
団子屋の店長も、三時のおやつ時ということもあって此方に構っている暇はなさそうだ。
銀時は仕方がなく、ぐーすかと鼻ちょうちんを作って寝ている女を抱き起こすと、背中に背負って歩き出す。
ため息を一つついて、彼女を背負い直すと、厚い雲の切れ目から一筋の光が覗いたのが見えた。
*