第3章 C'est la Vie/×ラビ(D.Gray-man)
ラビにとって粘液の交換はセックスだ。だから柚香とはキスをしても、フレンチ・キスまではいかない。
唇を尖らせてバードキス。
ティーンのやるようなキスじゃないが、柚香は満足そうに舌舐めずりした。
「じゃあ、今回は教団の上層部入りを果たしためでたい男の話をしましょうか」
「おお、結構大きな情報じゃんね。よく喋ったな」
「自尊心の塊みたいな男だったわ。そもそも、こんなところに来るお偉方なんて皆んなどっかイカれてんのよ」
確かに、とラビは頷く。
柚香はゆったりと話し始めた。
――これがラビが慰安所に赴く理由だ。
エクソシストなしに黒の教団は千年伯爵と、アクマとは戦えない。
当然のようにエクソシストは好待遇を受けているし、欲しいものはだいたい手に入る。
このチョコレートも薔薇も街で買ったものだが、その金は黒の教団から支給されたものだ。
この組織のどこからそんな金が出ているのか――ラビが気にする所の一つでもある。
慰安婦なんて低俗な存在だ、と見下す連中の数は教団内でも少なくない。
己の自尊心を満たすために、慰安婦に自らの功績を自慢して情報を漏らす馬鹿が跡を絶たないことに、幹部の奴らは気付いているのだろうか。
いや、もしかしたら幹部こそがこの慰安所をそのような目的で使っているのかもしれない。
ラビはとても常人とは言えないような記憶力を持っているが、柚香も大概記憶力はある方だ。
どんな状況で得た情報も、こうしてラビに横流しにすることでラビからの愛情を受けている。それを愛情と呼ぶのかどうか、彼にはわからないが。
「柚香は、どうして俺が好きなん?」
ラビは一度彼女に尋ねたことがある。
本当に、純粋な興味からだったが、彼女は慎重な言葉選びをした。
それはラビがいつまでも自分の発した言葉を覚えているからであり、柚香はラビが好きだからだ。