第3章 C'est la Vie/×ラビ(D.Gray-man)
ラビが黒の教団来たのとちょうど同じ頃、彼女はこの小汚い部屋でルーチンワークをこなすようになったのだ。
「で、今日はどんなものを持ってきてくださったの?」
彼女は輝く瞳をラビに向けた。
「ああ、今日は――これさ」
ラビが後手に持っていた縦長の箱をパカリと開けると、中にはチョコレートの棒が入っている。
添えられていたのは、まだ咲いていない薔薇の蕾だ。
「オランジュとプラリネ、イチジクが入ったショコラさ〜。あんた、こういうの好きだろ?」
「――La vie de luxe‼︎」
彼女は声を上げて、ラビに抱きついた。
『ラ・ヴィ・ド・リュクス』――おそらく"ラビ"と"ラ・ヴィ"を掛けているつもりなのだろう。
つまり、「あんたってば最高の贅沢をさせてくれるのね、ラビ!」ということだ。
柚香はこんなことを仕事にしていなければ、最高の女だ。
エスプリの効いた言葉選びをするし、頭の回転も速い。
抱きついてきた彼女の腰をひと撫でして、ラビは優しく微笑んだ。
「今日は聖バレンタイン・デイだろ。このくらいしなきゃ、男がすたるって話」
「私が好きなもの、知ってる? ラビ」
彼女はベッドの上に膝立ちになり、ラビと視線を合わせた。
柚香の両肘は彼の肩に乗せられている。
「ショコラ、ピアノ、クラシック……キツめのコーヒー、薄めのシガレット。あとは、オレンジピール?」
「惜しい、あと一つ」
ラビはククっと笑いを漏らした。
「さぁ? 俺はそんな話、これっぽちもあんたから聞いたことないさ」
柚香はラビの言葉にむっとして唇を尖らせた。
それに人差し指を一本立てて押し付ける。黙って、のジェスチャーだ。
目は口ほどに物を言う、彼女の眼差しはうるさすぎた。
柚香はラビの人差し指をのけて、彼の唇に自分のものを合わせた。
ラビは彼女にセックスは許さないがキスは許している。
なぜなら、彼女が他の男とは絶対に唇を合わせないことを知っているからだ。
柚香の柔らかな唇を喰む。