第3章 C'est la Vie/×ラビ(D.Gray-man)
クラーヂマンとしてこんな事を言うのは少々憚られるが、彼はこの世に神の存在など意識したことはない。
オカルト的なものを信じずとも、塩を振って清めたくなるようなところなのだ。
自慢ではないが、ラビは決して女にモテないわけではない。慰安所に行く必要もない。
教団内のどこの誰とも解らない男と穴兄弟なんてゴメンだ。
だから、そこに向かうのには性欲以外の理由があった。
彼はいつものように、慰安所の案内をする生気を感じさせぬ女に彼女はいるかと尋ねると、あてがわれた個室の汚いベッドにどっかりと腰をおろした。
頭につけていたバンダナを首まで下ろす。
ご丁寧に、間接照明の明かりは若干暗い。いい雰囲気というものを人工的に作り出している感じだ。
彼女が部屋に入ってきた時、ラビはその姿を確かめるために目を細めた。
「アロー、ラビ」
彼女は舌っ足らずにそう告げると、ラビの横にすとんと腰を下ろす。
ラビはいたずらっぽく笑って親指と小指だけを立て、手を耳に当てた。電話のジェスチャーだ。
「もしもし、柚香。オレだ、元気してたさ~?」
柚香はそれを見て、自分の額に手を当てた。あぁ~、と後悔の声を出す。
「アロー、アロー、アロー。どうしてもHって発音できないのよ。ボンジュールでいいかしら」
「もうイギリスに来て何年たってると思ってるんよ。オレがフランス語覚えるほうが早かったさ」
「なによ、」
柚香はむっとした顔をした。
「私は英語を覚えていないわけじゃないもの。アロー(Hello)も、アイ(Hi)も言えないけれど、他の単語ならこうして話しているじゃない」
「はいはい、んなことで怒んなって」
ラビは柚香の肩に腕をまわした。彼女のアジア人にしては大きな胸も、彼にとっては脂肪の塊にすぎない。
扇情的で際どい服装だって、ただの布だ。
本間柚香はフランスに移住してきたアジア人一家の一人娘だった。
彼女曰く、三歳まではエドに住んでいたらしいから、おそらく神田ユウと同郷なのであろう。
どうやら裕福な家庭だったらしいことが彼女の所作からも窺われるが、アクマとの戦争の中で家族や財産を失った彼女には自らの体を売るしか選択肢がなかった。