第3章 C'est la Vie/×ラビ(D.Gray-man)
何時の時代だって、人間ってのは争う生き物だ。
万人の万人に対する闘争――ホッブズの言葉だが、今の世間は正にこれじゃないかと次期ブックマンは考えている。
少なくとも、彼と彼の師匠の周りでは争いが途絶えたことなど一度もないのだ。
だからこそ自分たちのような「記録者」が必要となっているわけだが、最近ではその意識すら忘れがちになっている。
いけないことだとわかっていて、それでも戦争に自分が沈んでいってしまうのを止めることなど出来ない。
むしろ、彼の若さでそれができる人間がいるのなら教えて欲しいものだ。
教団の人間たちを仲間と感じてしまっている自分を、時折ブックマンは阿呆を見るような目で見る。
しかし、彼は余程強く"ラビ"を責めたりもしない。
本来ならば、殴ってでもそんな仲間意識は無くさせるべきだ。――歴史の傍観者として。
そうしないのは、ブックマン自身も過去に戦争という歴史に溺れたことがあるからなのかもしれない。
それに、ラビは己の職務を怠っているわけではない。
戦争に駆り出される兵士は、いつだって男だ。
今現在ラビが記録している戦争は、そうと限っていない特殊なケースだが、やはり探索班に所属する人間の大半は男なのだ。
起こる時代によって、戦争はその形を変えていく。
武器が変わり、得ようとするものが変わり、戦い方が変わり、ルールが変わる。
しかし、変わらないものが一つだけある。
――それは戦う人間の体の構造だ。
将来ロボットなんかが戦争を起こさない限り、それは変わることのない事実。
明日自分が死ぬともわからない状況で、男たちは本能から性欲を抑えきれなくなる。それ以外に、"死"という言葉を忘れられることが無いのかもしれない。
新たな命を誕生させる行為だけが、争いの中で彼等の慰めとなるのだ。
どんな組織にも秘密はある。
それは黒の教団だって同じで、ここには女の職員には隠された慰安所がある。
そこにいるのは職を失い、家族を失い、何も残すものはない女達だ。
誤解を恐れずに言うならば、彼女たちは黒の教団に買われた"売女"。
教団内を巣食う闇そのものを表しているようで、慰安所に行くとき、ラビはいつも塩を一摘み自分に振ってから向う。