第2章 イカれ菓子屋のお茶会/×影山飛雄(ハイキュー!!)
そんな日常の中に、この本命チョコという非日常を突っ込むのにはとてもとても精神力、勇気がいるのだ。
影山にはそこんとこがわかっていない。
私は影山の座る椅子に近付くと、すとんと腰を下ろした。彼の膝の上に。
「はぁ!? お前何してんだよ、早くどけ、アホ!」
くるん、と体を回転させ、丁度彼の左側が私の正面になるように座り直す。横抱きを想像していただければよろしいです。
人の膝の上に乗ると、どうも不安定でしょうがない。
危うい下半身を絶妙なバランスで一定に保つ。
影山の短パンから覗く素足と、私が履く黒タイツが擦れた。
薄い布越しのじんわりとした体温がとても扇情的だ。
私は手に持っていたチョコレートの箱で影山の口を塞いだ。
ぶっ! という小汚い音が可愛い彼から漏れ出る。
「飛雄ちゃん、うるさい。私は今、乙女の人生最大の選択中なの。チョコをロッカーに入れるか入れないか、山場ってところに貴方のうるさーい声が邪魔するなんて、私許せない」
だから、ちょっとだけ大人しくしていてね。と、び、お、ちゃん。
私は影山の耳元で囁くと、チョコレートの箱越しに真っ赤な彼にちゅっと口付けた。
箱が少し湿った気がするが、きっと影山の唇にべったりとくっついている反対側も同じなので気にしない。
いつもならば影山飛雄はそれでノックダウン、180cm越えの男子高校生だって顔を真っ赤にしてへなへなだ。
しかし、バレンタイン・デイという摩訶不思議なイベントは男である彼にすら特別な力を与えてしまうらしい。
私のくびれあたりをつかみ、潤んだ瞳で私を見つめながらチョコレートの箱をどかした。
びっくりするくらい、顔が近い。
この男にこんな甲斐性があったとは、と私はウキウキしながら目を閉じた。
しかしいくら待てど暮らせど、私の待つキスの雨は降ってこなかった。晴天もいいところだ。綺麗な青空だ。ふざけんな。
ぱっちり目を開けると、いつの間にか封を開けたらしいチョコレートをむしゃむしゃと食べる影山飛雄の顔が目の前にあった。
「飛雄さん、どういうおつもりですか」
「ん、どういうつもりも何も、今日俺が受け取らなきゃ意味がねぇって柚香が言ったから受け取ったんだよ」