第3章 新入部員
《怜side》
「だから、押さないでくださいってば!」
「いーから、いーから!」
葉月くんに背中を押され、僕はプールサイドに出た
バシャバシャ......
「っ!」
なんだあれは......
誰か泳いでる
あの人が七瀬先輩...?
「ねぇ、ハルちゃんの泳ぎ綺麗でしょ?」
本当に、人か...?
あれはまるで...海の中を泳ぐイルカのようだ
「......美しい」
「でしょでしょー?」
僕も、あんな風に泳げるだろうか...?
バシャ...
「あ、ハルちゃん出てきたー」
そんなことを考えてたら、七瀬先輩がプールからあがってきた
「あ、あの!」
「...なんだ」
七瀬先輩は無表情のまま、こちらを向いた
「どうしたら、あんな風に泳げますか......?」
僕はどうしてもその事が知りたくて、七瀬先輩に聞いた
「俺は泳ぎたいように泳いでる。ただそれだけだ」
「泳ぎたいように...」
それだけ言い残し、彼は行ってしまった
呆然と立ち尽くしていると、井上さんが隣に立っていた
『七瀬先輩、イルカみたいだよね』
「え?」
『私、七瀬先輩の泳ぎを見たとき、そう思ったの』
イルカか...僕と同じだ
「......僕もそう思います」
あんなに美しい泳ぎを見たことがなかった
人が水の中を泳ぐなんて...そう思っていた
『私は彼が泳ぐのを見ていたい』
「僕は......僕は、彼のように泳いでみたい」
お互いにそう呟き、僕と井上さんは
ふたりで小さく微笑んだ