第1章 ほどける心

及「ぢゃぁぁぁぁぁぁん…」
『うわぁぁぁぁぁぁ！？』

何も喋ってくれない及川先輩を、どうにかこうにか私の部屋に連れてきた。

その瞬間

ベッドに押し倒されて、大号泣された。

押し倒されたことよりも、号泣されていることに頭がいっぱいになる。

及「ごめっ、ごめんねぇ…そんなつもりじゃ…」
『先輩！！全然話が見えないんで、この状態でもなんでもいいので！とりあえず泣き止んでください！！』

嗚咽を漏らしながら泣いている先輩の髪を撫でる。

『何があったのか知りませんけど…。あんまりひとりで抱え込まないでくださいね？』

コクコクと頷く先輩が、いつもと全然違って可愛かった。

及「っちゃん…」
『なんですか？』

及「俺のこと、嫌いにね…ならないで？」

まったく予想してなかったことを言われ、目が点になる。
そんな私に気づかず、先輩は言葉を続けた。

及「おれ、ちゃんからチョコレートが欲しかっただけで…。あんな意地悪して…ごめん、ね」
『え、あ、はい。別に私怒ってませんよ？』

ん？先輩の嗚咽が止まった？

及「ほんと？」
『まぁ、少しムカつきましたけど…。でも、今回は私が悪いですし』

パッと先輩の顔が上がった。
目は腫れ、鼻水も出て、ぐちゃぐちゃになった顔。
でも、そんな顔何度も見たことがある。

『先輩？いいですか。私が先輩のこと嫌いになるはずないでしょ。
まあ、時々ものすごくウザイ時がありますけど…。
でも、嫌じゃないからそばにいるんです』
及「…ちゃん」

私は、そばにあった学校カバンから、小さな包を出した。

『そうじゃないと、用意しませんよ？チョコレート』