第8章 撮る
「…はい、1週間分」
彼が薬の1シートを私に差し出す。
「ありがとう…」
「残りは僕が預かっておく。必要があれば言ってくれ。渡すから」
「うん」
「ていうか…これは君が病院で処方してもらったもの?」
彼が尋ねる。
「違う…」
私は首を振る。
「眠れないって症状があるなら、ちゃんと病院に行って処方してもらうべきだ。保険が適用されるし変な男にあう必要もない」
「……」
私はうつむく。
「そういう病院に行くのが怖いのか? 今どきは普通の病院と変わらないって言うよ。僕がついていってやろうか?」
彼が優しく言ってくれる。
すごくうれしい。
でも…
「病院に行くと、お父さんにバレるから…」
「え?」
彼が不思議そうな顔をする。
「病院に行って、保険証使ったら…保険組合の利用明細みたいなのに載るの。私、風邪ひいたとき、近所の内科に行っただけで、すごく心配されちゃったの。だから精神科なんて行ったの知られたら…」
「いや、お父さんにもきちんと話すべきだよ…」
「言えない…」
涙がポロポロ出てきちゃう…。
「わかるけど…わかるけどさぁ…」
彼が私をそっと抱き寄せてくれる。
「ごめんなさい…」
「僕はお父さんじゃないよ」
「うん…」
彼の手が、優しく私の髪を撫でてくれた。