第9章 無理のない脱走計画を
「あっあのですね、その、ルートヴィッヒさんが……」
「ヴェストが?」
「はい……」
ギルの瞳が厳しくなった。
いやそこは「ヴェストかー!」とか喜んで、警戒をといて弟自慢とか始めるところですよね。
なぜ余計に警戒を強める。怖い。真面目なギルベルトさんって怖い。
そう恐れおののいていると、ギルが、
「ほら」
といって、唐突に手をさしだした。
「?」
「さっさと降りろ」
……あ、手をかしてくれるんだ。
おずおずと手を重ね、すとんと飛び降りた。
なんだかお姫様みたいで恥ずかしい。
息が荒くなったり、顔が赤くなったりしてないだろうか。
まだ胸の鼓動が乱れている。
高い場所から落ちたせいか、それとも別の理由があるのかは、今は置いておこう。
と、ギルがすたすた歩き出した。
背中を無防備に晒しているが、背後から奇襲されても私ごとき瞬殺できる、という自信のあらわれか。
警戒はといてもらってないように思える。
ここまで踏み込まれたから仕方なく、といったかんじか。それともいざとなれば口封じで――
「置いてっちまうぞ!」
「はっはい!」
ネガティブな妄想を中断され、慌てて私はその背中を追いかけた。