第8章 In the closed closet
それにしても空腹だ。
なんの嫌がらせか、クローゼットをお構いなしにいい匂いが漂ってくる。
「どうした? お前さっきから挙動不審だぜ」
「ヴェっ!? あ、その……おっ俺の料理がアーサーの口にあうかなって!」
「あー……その……まずくねぇよ」
「そっか! アーサーにきにいってもらえて嬉しいよ!」
「べっ別に褒めてねぇよ!!」
フェリちゃんの、本当に、本当に涙ぐましい努力が聞こえた。
味音痴二人以外の、さり気ない危機的状況。
さらに空腹ときている。色々と頭が痛い。
この状況を打破する方法を考えようとして、
「――っ」
唐突に、呼吸が断絶した。
背後から頭に銃を突きつけられる――そんな気持ちになる。
反射的に腹を手で抑えつけた。
蛇に睨まれた蛙でも、私ほど冷や汗をたらしていないだろう。
――ある生理的現象が、起ころうとしていた。
温度のない汗が頬をつたう。
頭が鬱血したように、どくどくと脈打つ。
あぁ、マズい――
ぐー
静かな食卓に、似つかわしくない異音が轟いた。