第7章 目覚めた場所は
困惑する私を見て、ルートは説明した。
「ネット上のある者が、今日この地で、天変地異が起こると発表したんだ」
胡散臭いぞ。
「その者は今まで地震や異変を言い当ててきたようでな。その名は世界規模のネットでは、ちょっとした有名人らしい」
「へえ……」
それはすごい……のか? よくわからない。まだ胡散臭い。
ルートも私と同じみたいだ。らしくとかようだとか、語尾はそればかり。
その反応がルートらしくて、私はにやけないために全精神力を駆使した。
「そのせいで店は閉まり、人々は家に閉じこもっている」
だから、やけにひとけがなかったのか。
「次に、まず謝るが紙袋の中を見てしまった。すまない」
「いっいえ!」
「倒れてきた像でコップが割れていたので、別の袋に入れさせてもらった」
そう言ってルートは、厚手の紙袋に入ったなにかの欠片を見せる。
砕け散ったそれは、菊のところから持ち出したままの、湯のみだった。
倒れてくる像から私を助けるだけで精一杯だったろうに、言い訳をしないルートはさすがだった。
というか、見ず知らずの私を助けてくれただけで、十分尊敬に値する。
頭では、そうわかっているつもりだった。
「……」
けれど、涙がこぼれた。
「あっ――す、すみません!」
「いっいや、俺の気が回らず――」
「いえルートさんはなにも悪くないです! 私が体調崩したせいですから」
涙を乱暴に拭い、早口でまくしたてる。
ルートはおもしろいくらいに狼狽していた。
ギルが真面目に働きだし、フェリちゃんが頼れる軍人になったのが、いっぺんに起きたときくらいの慌てっぷりだ。
私は涙をこらえて、笑みを作ろうとした。
けれど、あとからあとから涙が溢れてくる。
――菊と話したあの瞬間との繋がりが、砕けてバラバラになった気がしたからだ。