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【ヘタリア】周波数0325【APH】

第7章 目覚めた場所は


「いや、こうまでうまくいってるとさ」

頭を痛ませる私に、独白のように彼は言う。

「逆に不安になったりするんだよね」

「……え?」

なにを、言ってるんだろうか。

穏やかに微笑を浮かべる彼の正体が、言っていることが、目的が、掴めない。

もしかしてこれは夢なんじゃないだろうか。

にしては、四肢の感覚や空気感がリアルだ。

なんとなしに手を開いたり閉じたりしていると、自称“何者でもない者”さんがこちらに歩いてくる。

ただそれだけなのに、私はビクついてしまった。

歩くというシンプルな動きが、ここまで絵になるとは。

「っ!?」

変な声が出てしまった。

仕方ない、あまりにナチュラルな仕草で、両手を握られるものだから。

握られるというか、ガラス細工を扱うような手付きで、そっと触れられた。

彼の視線が私の視線と交わる。

私を射抜く瞳は、深く暗く、深海のように揺らいでいた。

あぁこの人には勝てそうもない――直感がそう呻く。

「――大丈夫」

なにをされるかドキドキひやひやしていたが、彼はそう言っただけだった。

「……あの……?」

わけがわからず尋ねようとするが、彼は背を向けて歩きだした。

「まっ待って!」

――あれ、おかしいな

走っても走っても追いつけない。

むしろ遠ざかっている。

いや、私が一歩も動けていないだけなのか――

「待ってってば!」

後ろ姿が白に融けていく。

蝕まれるように、音もなくしんとして。

手を伸ばす。

また届かないなんて嫌だ。

自分の叫び声が、ひどく遠くに聞こえた。
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