第5章 うつつか夢か
「!」
バッと顔を上げた、菊の黒い瞳が私を突き刺す。
言いたいのに、言いたいことが多すぎてうまく言えない、そんな表情をしていた。
……そんなにマズいこと言ったかしら。
「菊さ――」
言いかけ、続きが喉につっかえる。
私の手から、粒子のようなものがきらきらと立ち上っていた。
強い酩酊感。
頭がふわふわする。
本能的な危機意識からか、湯のみをぎゅっと握りしめていた。
「……公子さん?」
その声も、その顔も、すり硝子越しのようにぼやけていた。
突如、菊の姿が急速に遠ざかる。
狭く暗くなる視界のずっと奥。
闇にひたされた中心点へと、吸いこまれるように。
ただの一瞬で。
「待っ――!!」
のばした手の先を黒が支配する。
それはまもなく、背後からさす光に引き裂かれた。
なにが起きているのか全くわからない。
けれど否応なく、光が私を覆い尽くしていく。
視界が真っ白に染まる――