第5章 うつつか夢か
「質問とはちょっとズレますが……月の影響はいろいろすごいですよ」
ぴくっと菊が反応を示した。
手が止まり、テーブルに向いていた顔がこちらを見る。
早く続きを、と目がうながしていた。
新聞のコラム欄で得た知識なので、記憶はおぼろげだ。
うまく説明できるか不安だが、私は口をひらく。
「たとえば天気、もうこれは通説となってます」
「満月に雨が降りやすい、とかでしょうか?」
「はい。北米では月齢第1週――つまり新月と、第3週――満月の3、4日後、豪雨が起きやすいらしいです」
「豪雨に周期があると?」
「そういうことになりますね。近い将来、天気予報に月齢が加わる可能性は高いです」
目をキラキラさせながら、菊が興味深そうに頷いた。
私はさらに続ける。
「あとは、精神病院や警察、それに消防署も、満月には特に気をつける、という伝統? のようなものがあります」
菊が驚いた表情を見せた。
私が初めて知ったときも、同じような顔をしていたにちがいない。
月が人を狂気に駆り立てる――そんなことが、通念としてまかりとおっている場がある、なんて。
「つまり――」
「意識障害に関係がある可能性もある、と」
菊がゆっくりと言葉にした。
ためらいがちに、私は頷く。