第5章 うつつか夢か
「なにか質問はありますか?」
「いえ、今のところはありません」
多すぎる情報が脳内で交錯している。
こんなキャパシティーオーバーな頭では、なにがわからないのかわからない状態だ。
「わからないことがあれば、いつでも仰って下さい」
真摯な表情でそう告げられる。
優しい気遣いに拍手をおくりたかったが、礼を言うだけに留めた。
続いて申し訳ないのですが、と再び菊が話し出す。
「なんでも構わないので、この世界についての一番強い印象を、お聞かせ願えますか?」
「なんでも……ですか?」
「はい。別世界からきた#公子#さんだけが気づいていることも、あるかもしれません。本当になんでも構いませんので」
人間、“なんでも”と言われると困るものだ。
夫から夕飯を『なんでもいい』と言われた主婦の大変さが、身にしみる。
えぇと、えぇと……ほっ本当になんでもいいのね!?
意を決し、口をひらく。
「一週間前自分の世界で見た満月より、こっちの月のほうが綺麗で、びっくりしました」
「一週間“前”? 時間のズレがあるのでしょうか……」
お月見はよそでやれ、と言われるのを覚悟していたが、至極真面目に受け取られたらしい。
なにやら熱心にペンを走らせている。そろそろ寝たらどうだい祖国。